2025年8月、マクドナルドのハッピーセット「ポケモン」が社会現象的な炎上を起こした。発売初日から特典であるポケモンカードが品切れとなり、転売目的とみられる大量購入や食べ残しが相次いでSNSに拡散された。子ども向けの定番商品であるはずのハッピーセットが、なぜここまで大きな話題と批判を呼んだのか。ノウンズ株式会社が行った意識調査では、消費者の半数近くが「マクドナルドへの好感度が下がった」と回答したことも報告されている。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000109701.html
本稿では、調査データと周辺の事実を手がかりに、今回の出来事を単なる「炎上事件」ではなく、現代カルチャーの縮図として読み解いていく。そこには、子ども向け商品が大人のコレクション文化に吸収される時代背景、SNSによって消費体験そのものがエンタメ化する状況、転売行為が引き起こした社会的反発、食品ロスをめぐるサステナブル意識の高まり、そして国民的ブランド同士が結びついたことで炎上が“社会的行事”のように広がった構造が見えてくる。
数字が示す現実――購入行動、動機、認知経路、そしてブランドへの影響
ノウンズ株式会社が全国1,009名を対象に行った調査では、実際に「ポケモン ハッピーセット」を購入した人は全体の22%程度であった。その内訳は、1〜2セットを購入した人が151名、3セット以上が74名である。さらに購入を検討したが買えなかった人が180名存在し、認知はしていたが購入しなかった人が502名、今回の調査で初めて知った人が102名という結果が示された。SNS上での熱狂が強く見えた一方で、実際には「知っていたが購入しなかった」人々が約半数を占めていた。
購入や検討をした計405名に理由を尋ねると、最も多かったのは「子どもに喜んでもらうため」で151名。次いで「自分のコレクション用」が143名と続いた。この二つで大多数を占めており、ハッピーセットが子ども中心の商品であると同時に、大人の趣味的な収集対象としても浸透していることを示している。
一方、転売目的を理由とした人はわずかであった。しかし、少数であってもその行為は極めて大きな社会的反発を招いた。SNSや報道で繰り返し拡散されたのは、まさに転売目的とみられる大量購入や、特典のみを確保して残された食べ物の映像である。消費者はその行動に強い嫌悪を示し、倫理観の欠如を批判した。
キャンペーンを知ったきっかけはSNSが最も多く353名で、次いでニュースサイト・テレビが308名。公式アプリやホームページから知った人は116名にとどまった。つまり騒動は、SNSで問題行動が可視化され、それがニュースによってさらに増幅される構造の中で広がったのである。
ブランドイメージへの影響では、「好感度が下がった」と答えた人が47%に達した。「変わらない」が37.6%、「上がった」が10.8%、「特に印象はない」が4.6%であり、企業への信頼が揺らいだことは明白である。原因認識では「一部購入者のモラル問題」680票と並んで、「仕組み設計の甘さ」524票が上位となり、消費者は個人の行為だけでなく企業側の準備不足も問題視していた。
子ども向けから大人文化へ――ハッピーセットは“推し活アイテム”になった
ハッピーセットは本来、親子で食事を楽しみながらおもちゃを受け取る体験設計に基づいてきた。しかし、今回の調査が示すように「子どものため」と「自分のコレクション用」が並び立ち、子ども向け商品が大人の収集文化に吸収されている。
ポケモンカードは世界的なトレーディングカード市場で高い人気を誇り、限定カードや記念品は常に注目される。その文脈の中で、ハッピーセット特典もまた大人の「推し活」の一環として機能してしまった。ファストフードが食の場を超え、趣味の収集や所有欲の舞台となっている現実は、現代カルチャーの大きな変化を示している。
SNSが“消費イベント”を娯楽化する――「買えなかった」も体験になる時代
認知経路でSNSが最多だったことは象徴的である。SNSでは「朝から並んだ」「複数店舗を回ったが買えなかった」といった投稿が次々に拡散され、それ自体がエンタメとして消費された。手に入れる喜びだけでなく、買えなかった体験までもが一種のコンテンツとなり、可視化された熱量として話題を押し上げた。
同時に、SNS上で拡散されたのは残された食べ物や転売出品の写真だった。これらの映像は人々に強い拒否感を与え、「カードだけのために食べ物を粗末にする」行為が、倫理的に許容できないものとして共有された。SNSはこうした不正行為やモラル欠如を一気に可視化し、世論を形成する場として機能したのである。
転売行為が引き起こした社会的反発――強い嫌悪感と倫理観の欠如
今回の炎上で最も象徴的に非難されたのは、転売目的での大量購入であった。調査上では転売を理由にした人は少数にとどまったが、少数であってもその行為は社会的に大きな影響を及ぼした。カードを大量に確保して高額で転売する行為は、子どもや本来楽しむべき層の機会を奪うだけでなく、消費体験を歪めるものとして糾弾された。
企業の謝罪や再発防止策にも、フリマアプリ事業者への要請や購入制限の厳格化が含まれていた。これは、転売行為が世論の最大の批判対象となり、ブランドの信頼を大きく損なったことの表れである。転売行為は今回の騒動の中で最も強く否定されるべきものであり、炎上の象徴となった。
食べ残し炎上に映るサステナブル時代の感度――食文化と倫理の衝突
大量購入による食べ残しの映像は、今回の炎上をさらに激化させた。日本社会では食品ロスへの関心が高まっており、食べ物を粗末に扱う行為は強い拒否感を招く。ハッピーセットは「子どもに楽しい食体験を提供する」という理念の象徴でもある。その場で大量の食べ残しが発生したことは、ブランド価値にとって深刻な打撃となった。
消費者は単なる「もったいない」という感情以上に、「社会全体で食品ロスを減らそう」という意識を持っている。サステナブル時代において、食べ切れる設計や特典の受け取り方の工夫は、ブランドが信頼を保つために欠かせない条件となる。
まとめ――国民的ブランドと国民的キャラが交わる場所は現代カルチャーの縮図
マクドナルドとポケモンという国民的ブランドが組んだことで、ハッピーセット騒動は全国規模で可視化され、炎上は社会的なイベントのように広がった。子ども向け商品でありながら、大人の収集欲が加わり、SNSでの可視化と転売行為、食品ロスの問題が重なったことで、単なる一企業のキャンペーンを超えた文化的事件となった。
ノウンズの調査では、今後同様のコラボが行われた場合に「積極的に参加したい」と答えた人は11.8%に過ぎず、「条件次第で参加したい」が33.3%、「参加しない」「興味がない」が合計で54.9%にのぼった。熱狂は限定的であり、消費者の支持は条件付きであることが浮き彫りになった。
今回の騒動は、子ども向け商品が大人文化に吸収される現象、SNSによる消費の娯楽化、転売という不正行為への強い社会的反発、食品ロスへの敏感な意識、そして国民的ブランド連携がもたらす炎上拡大という要素が一挙に表れた事例である。現代の消費文化が抱える矛盾や課題を浮き彫りにしたこの事件は、次のキャンペーンに向けて私たち自身が「どう消費と向き合うか」を問いかけている。
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